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神戸家庭裁判所 昭和36年(家イ)158号 審判

申立人 早瀬重子(仮名)

相手方 早瀬公市(仮名)

主文

昭和三六年二月二三日附神戸市長田区長宛届出にかかる申立人と相手方との婚姻が無効であることを確認する。

理由

申立人は主文同旨の調停を求めたうえ、事件の事情として申述した要旨は「申立人は、相手方が申立人の住所に近い浴場○○温泉に働らいていた頃顔見知りとなり、昭和三四年一二月末頃以来相手方から手紙で交際を求められていたものである。そして昭和三五年五月一三日頃相手方から結婚の申入を受けるに至つたのであるが、申立人は相手方とは結婚できる事情になかつたので、相手方の反省を求める考えで、同年六月一三日頃相手方と出会つて話し合おうとしたところ、かえつて口実を設けて相手方の居室に同行させられ、しつように結婚の承諾さらには肉体関係を求められたため、その場はやむなく結婚を考慮する旨答えたのであるが、これは申立人の真意ではなかつた。申立人はそれ以来相手方から逃れるため姿を隠していたところ、相手方は勝手に申立人名義の印鑑を使つて昭和三六年二月二三日神戸市長田区長宛申立人と相手方との婚姻届を提出し、その旨戸籍に記載されるに至つた。これは全く申立人の意思にもとづかない届出であり、婚姻意思を欠く無効な婚姻であるから、これが無効確認の調停を求めるため、本件申立に及んだ次第である」というのである。

相手方は調停委員会の調停において、相手方が単独で上記婚姻届を作成提出したことは認めたが、その無効を確認することには応ぜず、結局調停は成立しなかつた。しかし相手方は申立人との婚姻届偽造の事実について昭和三六年六月七日神戸地方裁判所において私文書偽造同行使公正証書原本不実記載同行使被告事件として懲役六月の有罪判決を受けたものである。

当裁判所は事案の性質上特に職権で解決をはかるのを相当と認め、調停委員高谷久二郎、同和木保選、同和田よねの意見をきいたうえ、家事審判法第二四条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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